【コラム】オカマは洗濯において葛藤する

BS_2_main

 

「これ、例のものが入ってるから。くれぐれも大切に扱うのよ」
  そう言って、大きな紙袋を半ば無理やり手渡された。

 どこのゲイバーにも、お局と呼ばれるような重鎮のオカマがいる。
 彼らの機嫌を損ねることは、行きつけの店、すなわち自分の築いてきた小さなコミュニティが消失することと等しい。
 せまいオカマのコミュニティにも、実社会と同じような少し面倒くさい、それでも組み込まれておくべきしがらみが存在するの。町内会の溝掃除に毎回きちんと参加するようなものね。
 その日も重鎮からの強引な押し付けを上手くかわせず、わかった、わかったとしぶしぶ依頼を引き受けたわ。

 家に帰って紙袋を開けると、青くきらめくドレスとウィッグ、パンティとブラと、ご丁寧にも胸パッドが入っていた。
 週末、ゲイバーのイベントで女装をするはめになったのよ。
 女装をしてパフォーマンスすることついては問題ないわ。ただ、ひとつだけ釈然としない点があるの。
 ドレスとウィッグは理解できる。ブラと胸パッドも百歩譲って理解できる。なぜ、パンティまで入っているのかしら。
 確かに私はオカマ言葉をしゃべるオカマだけど、ただそれだけなの。見た目も中身もオッサンだから、女装に関しては疎いのよ。
 スカートの中まで完璧に女装する理由はなに? どこに需要があって、なにを要求されているの?
 ほんのりピンクがかった布の塊は、その存在を誇示するかのように、リビングの中央に悠然と鎮座していた。

 イベント当日、私は少しきつめのドレスを着て、安っぽいウィッグをなびかせながらビヨンセの曲を歌い上げたわ。
 仲良しオカマ三人で、日焼けしそうなほどスポットライトを浴びた。
 パンティは自宅に置いてきたわ。少しゴムの伸びた重鎮のお下がりを履くのは絶対に嫌だったから。
 ショーは拍手喝采で、やっぱりパンティも不要だった。 それでもどうか今日のことを忘れさせてくれと願うように、女装したまま浴びるほど酒を飲んだわ。

 翌朝、二日酔いの重い頭を抱えながら部屋の隅に目をやると、一週間分の洗濯物が山のように溜まっていた。
 山頂には私が女装オカマであるという現実を突きつけるように、昨夜のドレスとブラが静かに横たわっていたわ。
さあ片付けるか、としなびた洗濯物を見ながらふと思った。

「ベランダに干したドレスとブラを人に見られるのが恥ずかしい」

 男物のシャツやジーンズが並んでいる中、ドレスとブラが干してあればきっと誰もが違和感を覚えるわ。
 ご近所には働き盛りの爽やかサラリーマンとして通しているつもりだから、そのイメージは絶対に守らなければならない。
 部屋干しはダメだわ。私の自宅は部屋干しすると絶対にオッサンみたいな臭いが染み付いてしまうの。もともとオッサン臭いドレスだったから問題ないのかもしれないけど、そこはオカマとしての品位を落としたくない。
 クリーニングに出すのもダメね。顔なじみのおばちゃん店員から「あら、彼女でもできたの?」なんて聞かれるに決まってる。
 コインランドリーもダメ。私はクマさんがプリントされたものすごくダサいTシャツをパジャマにしているのだけど、そのTシャツを偶然コインランドリーで同僚に見られた過去があるの。ブラを乾燥機から取りだしている姿を見られたら、どんな噂が立つかわからないわ。
 結局、ドレスとブラは洗濯機のドライコースで洗濯して、バスルームの隅でドライヤーを駆使して乾かした。
 情けない中腰でドレスとブラを乾かすこのオカマの姿を、老いた母親が見たらどう思うだろうと考えながら。

 数日後、重鎮とカフェで待ち合わせて、お礼を言ってドレスの入った袋を手渡したわ。  重鎮はタバコをふかせながら、パーティに来ていた男たちがいかにイケてなかったかについて延々と愚痴をこぼしていた。アンタの女装も私の女装も、相当イケてなかったけどね。
 普段から事あるごとに女装しているこのオカマに、ドレスやブラを自宅で干すことへの葛藤について聞いてみると、意外な答えが返ってきたわ。

「アタシなんて、パンティとふんどしを一緒に干してるわよ」

ふんどし所持の情報を得たことは藪蛇だったけど、堂々としていて格好よかった。
 その姿を見ていると、必死になって保身に走っていた自分が馬鹿らしくなる。私はなにを守ろうとしていたのだろうか。なにを恥じていたのだろうか。
 恥という感情は、自分の中の理想像とのズレなのだ。私はたまに女装をする身も心もオッサンのオカマ、それ以上でも以下でもないじゃない。
 次に女装をすることがあれば、堂々とベランダにドレスとブラを干そう。
 そう決意したところに、重鎮が一言つぶやいた。

「今度またイベントがあるから、そのときも女装をお願いね。次は露出度が高めの、きわどいドレスを用意しておくから」

 帰りの電車内で、無意識のうちにスマホで「衣類乾燥機」と検索していた。
 私が重鎮の器を持つには、まだまだ時間がかかりそうだ。

 

○BSディム プロフィール○
昼は真面目な係長、夜は不埒なオカマです。普段はブログやツイッターでブツブツとオカマ仲間への文句を言っています。普段の家事もブツブツと文句を言いながら何とかこなしていますので、その様子を無理やり皆さんにお届けしたいと思っています。

写真:BSディム

文:

※この記事の内容について、花王株式会社は監修を行っておりません。
※この記事に含まれる情報の利用は、お客様の責任において行ってください。
詳しくは、当社の「ウェブサイト利用規定」および「『マイカジスタイル』コンテンツの利用規約」をご覧下さい。

debug 2017-03-24 11:12:42

関連記事

あなたのカジスタイルを見つけよう!