【コラム】トイレ掃除とオカマの宴

bs_1

 トイレ掃除をすると幸運が舞い込む、なんて都市伝説を聞いたことがあるかしら?
 あんなのはとんだ嘘っぱちね。冷たい陶器を磨けど磨けど、オカマの暮らし楽にならざり。はなから期待はしていないけど。
 私はね、朝起きるとまずはトイレを掃除するのよ。
 一日のはじめに一番嫌な作業を片付けてしまえば、あとの仕事が多少は楽に思えるから。
 正直言って面倒だし、はっきり言って疲れるけど、毎日やっていれば大した作業量でもないし、とにかく掃除をしたという事実を作ればいい、という程度の意識で取り組んでいるわ。
 ただ、そんな気休めではじめた習慣であっても、掃除の間隔を二日空け、三日空けると、怠惰の地獄へと引きずり込まれる気がしてならなくなるの。
 私の家のトイレには、ひと昔まえに流行った歌のようなきれいな女神様じゃなくて、四つん這いで、皮膚は真っ黒で口は裂けて、鬼瓦のような顔をした化け物がいるのよ。

 それでも、二日酔いの罪のすべてを受け容れてくれたり……これは秘密の話なんだけど、ワイングラスを持ち込んで、迎え酒に付き合ってくれるのもまたトイレなの。
 名将伊達政宗は毎日トイレに2時間こもって読書をしていたらしいけど、私もスマホを片手に2時間こもることはざらよ。スマホのカメラレンズは、現代の独眼竜に見えなくもないわ。
 会社のトイレは憩いのサボり場所で、上司への鬱憤を水に流すにはちょうどいいわね。
 自宅近くの公衆トイレには、ここでは書けないような内容のクリエイティブなラクガキがあって、思い出すたびに憂鬱な気分を吹き飛ばしてくれる。
 トイレはどんな場所にも必ず設置してあって、どんな思い出、記憶の中にもそっと添えられるものなのよ。

 中でも忘れられないのは、行きつけのゲイバーのトイレで起きたある出来事ね。
 その日はママからカクテルの薀蓄を聞きながら、カウンターでひとりギムレットを飲んでいたわ。
 カクテルグラスは新緑と小川に差し込む光芒のように輝いて、一日の疲れを癒やしてくれた。
 そんな美しき孤高を謳歌していた私の隣では、オカマたちが昭和のアイドル歌謡を歌い踊り、まるで店そのものが狂酔しているようだったわ。
 私はただ、静かに飲みたいだけなのに。ふつふつと湧き上がる怒りが、グラスをさらに傾けさせたわ。

 日付が変わり、まどろみがじわりと天井の隙間から溶け出すころ。
 オカマたちも疲れ果て、店全体を気だるい空気が支配する沈黙の中でそれは起こったの。

   「止まらない! 止まらないわー!!」

 トイレの方向から、叫び声と、壁を叩く地鳴りのような音が聞こえてきたの。
 トイレ、絶叫、止まらない。それらのヒントからいくつか原因が推測できたけど、そのどれもが最悪だった。
 ママがどうしたのよと叫んでドアを叩くと、外側から鍵を開けてくれと中のオカマが必死に訴えていたわ。
 コインを使って鍵を開けると、オカマが便座に腰掛けたまま苦悶の表情を浮かべていた。

  「お尻の……お尻の水が止まらなくなっちゃったの……!!」

 最初はなにを言っているのか全くわからなかったけど、要はシャワー付きトイレのシャワーが止まらなくなった、ということらしい。
 事態は想像以上に深刻で、どうにかこの状況から逃げ出そうとした痕跡が水浸しの床から見てとれたわ。
 誰もが絶望を感じたわ。もしトイレを使いたくなったら、このオカマと交代しなければならないのか、と。
 立ち尽くし、泣き出しそうなオカマたち。
 そのとき、ママが動いたの。すっと屈んだかと思うと、流れるようにしなやかに、トイレの電源プラグをひっこ抜いたわ。
 どうして誰も思いつかなかったのかしら! よかった。これでようやく、みんな安心してトイレを使える。
 安堵のため息をついたのも束の間、便座に磔となったオカマが叫んだわ。

  「まだ出てるわー!!」

 絶望はまだ続いていた。
 ママはここでも冷静に、少し待ってれば止まるから大丈夫よ、とオカマをなだめていた。  水はすぐに止まったけど、ぷっと誰かが吹き出したのを皮切りに、みんなでひとしきり笑い転げたわ。
 ここには書けないような格好のオカマは、びしょ濡れのズボンを抱きかかえながら、ごめんね、ごめんね、と申し訳なさそうに謝っていた。
 オカマ全員で、笑いながら水びたしのトイレを掃除したわ。
 共同作業はオカマ同士の仲をも深める。そのあと私も、オカマたちに混じってアイドル歌謡を朝まで歌っていたのは言うまでもないわ。
 そして、いつまでもお笑い種になっているの。この日の、この出来事が、この面子でね。

 私にとって、トイレは感情を休ませる終着駅であり、新たな感情を芽生えさせる始発駅でもあるのよね。
 苦手なトイレ掃除を欠かさないのは、そういった日々の思いを蔑ろにしないためなのかもしれない。
 トイレに巣食う化け物は、孤独な私を人たらしめてくれる神様だったの。

 ブラシに洗剤、ゴム手袋を用意して、今日も私は掃除を続ける。
 面倒だけど、疲れるけれど、それでもまだ、続けている。

bs_2

○BSディム プロフィール○
昼は真面目な係長、夜は不埒なオカマです。普段はブログやツイッターでブツブツとオカマ仲間への文句を言っています。普段の家事もブツブツと文句を言いながら何とかこなしていますので、その様子を無理やり皆さんにお届けしたいと思っています。

写真:BSディム

文:

※この記事の内容について、花王株式会社は監修を行っておりません。
※この記事に含まれる情報の利用は、お客様の責任において行ってください。
詳しくは、当社の「ウェブサイト利用規定」および「『マイカジスタイル』コンテンツの利用規約」をご覧下さい。

debug 2017-05-24 13:09:07

関連記事

あなたのカジスタイルを見つけよう!