【コラム】はじめて風呂を掃除をした日

625_写真1(風呂掃除について)

社会人になってずいぶんと経っても、風呂掃除の方法を知らなかった。
ひとり暮らしのアパートではもっぱらシャワーか銭湯だし、実家の風呂は自動洗浄機能つきで、床や天井には汚れがつかないように撥水・防汚コーティングが施されていた。
タコのような動きで浴槽や浴室をなでるだけで掃除が完了してしまうのだから、まともな掃除の方法が身につくわけがないわよね。
オカマが夜な夜な湯船で身体をくねらせる様子が見るに堪えないことは重々承知だから、私は未来永劫、恋人と実家の風呂に入ることはないでしょうね。
そもそも風呂は癒しとくつろぎの場所であって、汗水たらして掃除をする場所ではないのよ。
言っておくけど、普段は不精なわけでもないし、掃除が苦手なわけでもないわ。 実家の風呂が高機能だったせいなのか、両親の気質を受け継いだせいなのかはわからないけど……ただとにかく風呂掃除は面倒だったし、その術を学ぶ意味も必要もなかったのよ。あの日までは。

昔、無職だったときに後輩のオカマのアパートに泊まり込んでいたことがあるわ。
そんな身の上の私が言うのも何だけど、後輩はとにかく手のかかる子だった。
忘れものが多くて、財布や携帯を会社に届けてやることも多かったし、真夜中に泥酔しては私が車で迎えに行って、家に帰ればつきっきりで介抱したことが何度もあったわ。
ドジっ子で通るならまだいいけど、オカマであって、中身はいい年をしたオッサンなのよ。
バカな子ほどかわいいとはよくいうけど、かわいさ余って憎さ百倍とならないことを日々願うばかりだったわ。
さらに、後輩はとにかく家事をしなかったの。
食事は常にコンビニ弁当で、洗濯も片付けも滅多にしない。
私は居候の身であったし、後輩がほとんど何もしないことも相まって、家事のほぼすべてを私が担当していたの。
簡単だけど朝晩の食事を作って、不器用ながらも掃除や洗濯をして、空いた時間に就活をした。

居候初日と比べて部屋は見違えるほどきれいになって、後輩も文化的生活を取り戻し、痩せこけていた頬が少しふっくらしたように見えた。
でもね、そんな後輩にできて私にできない唯一の家事があったの。風呂掃除よ。
これまで風呂掃除をした経験なんてまったくないから、浴室の何をどこまで掃除していいのかわからないのよ。
そもそも私の中で風呂は掃除するものではないから、浴槽や床を磨く作業は、掘った穴を埋めてまた掘り返すような、果てしない徒労に思えるのよね。
逆に、後輩は風呂やトイレなどの水回りだけは完璧に、いやに効率的に掃除をするのよ。 理由は「カビアレルギーだから」と言っていたけど、だったら今すぐにその万年床をクリーニングに出すべきだと思ったわ。
餅は餅屋ではじめのころは後輩に風呂掃除を任せていたけど、無職の居候という十字架の重さにいよいよ耐えられなくなって、後輩に掃除の方法を指南してもらったわ。

意気揚々と浴室に足を踏み入れると、「風呂掃除はくつ下をはいてやるものではないですよ」と指摘されたわ。
確かに水滴を吸ってひやりと濡れたくつ下の感触は不快の極みね。されど時すでに遅し。覆水盆に返らず、濡れたくつ下は乾かず。
眉をひそめてくつ下を脱いで、スポンジと洗剤を手にとると、次に「床や壁は親の仇のように隅々まで磨かなくていいですからね」と教わったわ。
念入りに磨くのは大掃除のときだけでいいらしい。そして毎日少しずつ、風呂から上がる直前に、湯船からお湯を抜いて簡単に浴槽を磨くだけでいいらしい。
毎日ちょっとでもスポンジでこすれば水垢も汚れもつかないし、換気を充分に気をつけていればカビも滅多に生えないそうよ。
床も壁も浴槽の掃除も、ものの5分とかからず終わってしまった。
手際がよく、テキパキと掃除を教えてくれる後輩の姿がなんだかたくましく見えた。

こんな風に、ふたを開けてみれば風呂掃除は、たいして面倒な作業ではなかったのよね。
そして、帰するところ後輩はたいした家事をしていないのではと思ったけど、仕方がないか、とも思った。
会社を辞めて身も心もボロボロだった私を、「ウチ、来ます?」と誘ってくれたのは後輩だったの。
何も詮索せず、必要以上に気も遣わず、普段通りの態度で接してくれたわ。
家事をしなさいと口酸っぱく小言を繰り返す私を、嫌な顔ひとつせず迎えてくれた。
彼の生活にもぐりこんで、頼って甘えていたのは私だったの。

その日は風呂上がりに、買っておいたアイスクリームをふたりで食べた。
後輩のマヌケは相変わらずで、カップの蓋を開けると、ものの数秒でTシャツに食べこぼしのシミを作ったわ。
それをシミ抜きするのは誰だと思ってるのよ!と、普段なら叫んでいるところだったけど、手のかかるバカな子も、今日だけはなんだかかわいく見えた。
暮れなずむ空がせまいリビングに明かりを灯して、窓ガラスにふたつの楽しげな影を映しだす春の日だった。ひとつは老父のようで、ひとつは青年のような影だった。

 

420_写真1(風呂掃除について)

○BSディム プロフィール○
昼は真面目な係長、夜は不埒なオカマです。普段はブログやツイッターでブツブツとオカマ仲間への文句を言っています。普段の家事もブツブツと文句を言いながら何とかこなしていますので、その様子を無理やり皆さんにお届けしたいと思っています。

写真:フリー写真サイト・Photo AC

文:

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