【コラム】ゴミの分別は、哲学だと思う

日本人の1人あたりのゴミの排出量は、なんと年間約340kg なんですって。
飽食の時代、世界有数の人口密度を誇るこの国で、多量の食品廃棄や食べ残し、過剰包装や不必要な使い捨てがはびこるのは必然ね。
こんな片田舎に住む人畜無害なオカマにも、その波が及んでいるのだからやるせないわ。

今の地域に引っ越してからというもの、ゴミの分別がずいぶんと面倒になったのよ。
分別の種類がとにかく多くて複雑で、いつもゴミ袋を前に困惑するの。
大きくは「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」「資源ゴミ」に分かれているのだけど、そこから厳密なルールにしたがって、細かく分別しなければならないのよね。
中でも面倒なのがビンの分別よ。色ごとに分ける必要があるのだけど、透明なのか薄茶色なのか、茶色なのか黒なのか、判断しづらいことがままあるのよね。
毎週、大量の酒瓶を前に頭を抱えているわ。いっそ自宅に溶解炉でも設置して、全部投げ込みたいくらい。

ゴミをきちんと分別するのは市民の義務だから仕方ないけど。でも、私がここまで神経質になるのは、義務感の他にも理由があるのよ。
近所のゴミ捨て場に、ゴミの分別チェックに命をかけた番兵のようなミセスがいるのよ。
噂によると、分別方法が間違ったままゴミを出すと、家まで押しかけられて延々と説教をされるらしいわ。
最近は晩酌を終えて空き瓶の数が増えるたび、ミセスの顔が浮かんでしまうの。
いつかパブロフの犬のように、酒のにおいを嗅いだだけでもミセスを思い出してしまうのかしら。

先日、オカマ仲間との飲み会でそんなことをぼやいていたのよ。
すると意外にも共感を得られたわ。まわりオカマたちも私同様、ゴミの分別には苦労しているようだったわ。

「ペットボトルの本体とキャップとラベルをそれぞれ分けるのは面倒くさいわ」

「アイドルの生写真の束は古紙でいいのか1時間迷ったことがあるわ」

「過ぎ去った恋の思い出は燃えるゴミなの? 燃えないゴミなの?」

出てくる不満は枚挙に暇がなかったわ。
そもそも分別に意味があるのか?とすら皆が思いはじめたとき、それまで黙っていたオカマのひとりがやおら口を開いたのよ。

「ゴミはきちんと分別しなさい。その陰で泣いている人たちがいるのよ」

どうやら父親がゴミ処理場のお偉いさんらしくて、私たちの排出したゴミがいかにして処理されているか、昔からその苦労を聞かされて育ったそうよ。
ちなみにそのオカマは、ご両親から事あるごとに「お前はゴミの山に埋まっていた子なんだよ」と言い聞かされて幼少期を過ごしたらしいわ。ありがちな「橋の下で拾った子なんだよ」よりはるかに過酷ね。
実際、毎日飲んだくれては路上に倒れ込むという、まさにゴミのような生活をしているから、彼女がゴミの山で拾われた説も、あながち間違いではないのかもしれない。

それはさておき、家庭できちんと分別されていない一部のゴミは、 ゴミ処理場で手作業によって厳しく仕分けられているそうなのよね。
中でもプラスチックとして集められたゴミは、ひどく汚れたものや、プラスチックに分類されないもの、明らかにプラスチックではないものがかなりの割合を占めるそうよ。分別作業員のおっちゃんの心中は察するに余りあるわよね。
自治体のコストを考えても、家庭での分別を徹底するメリットは個人にもあるはず。番兵のミセスは、市民の生活の守り神だったのね。
そう思うと、ペットボトルのキャップとラベルを分別する手間を惜しむのも忍びないわ。古い写真の分別方法がわからなければ、きちんと自治体のサイトを見ればいい。そして過ぎ去った恋の思い出は、議論の余地もなく燃えないゴミとして捨てるべきなのよ。

ただ、ゴミの分別方法には地域差があって、このオカマの話はあくまで一例なのよね。
燃えるか燃えないかの区分しかない地域もあるそうね。野性味あふれる半裸のイケメンが「オレ、ゴミ、ゼンブ燃ヤス」と言いながらゴミ袋を収集車に投げこむ姿を思わず想像してしまったわ。
まるで天国ね、なんて言いながら、オカマたちの夜は更けていったわ。

飲み会の翌朝、私は少しだけ早起きをして、少しだけ丁寧にゴミを分別したわ。
自治体のサイトから詳しい分別表を印刷して、改めてゴミ袋の中身を見てみると、思い違いの数々に気付かされたの。
プラスチックであってプラスチックでないものや、ビンであってビンでないものもある。もはや哲学といっても過言ではないわね。
次から次へとゴミを袋から取り出して、すべてを分別し終えると、妙に晴れやかな気持ちになったわ。
当然の義務ではあるけれど、これも社会貢献のかたちよね。

朝日は充分に昇りきって、そろそろゴミ出しをしなきゃと、ぎゅうぎゅうのゴミ袋を抱えたまま玄関を開けた。
初夏の青空がどこまでも広がって、真っ白な雲の合間に浮かんだのは……満面のミセスの笑顔だったわ。

 

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写真:フリー写真サイト・Photo AC

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